ドキュメンテーションアーカイブのみち

【インタビュー】スチュアート・ロゼンブラット

1944年2月23日イギリス・ベルファスト生まれ。
2歳半の時にダブリンに移り住む。
彼のデータベースは世界で最大かつ唯一のユダヤ系アイルランド人の系統図である。
アイリッシュ・ジューイッシュ・ミュージアムから分かれて成立したアイリッシュ・ジューイッシュ・ジェネオロジカル・ソサエティ(ユダヤ系アイルランド人系図学協会)は1999年に設立された。

― この作業を始めたきっかけは何でしたか?

はじめは自分の家族を調べ始めました。両親が亡くなった時、自分が代々引き継いでいるものやバックグラウンドを知りたかった。アイリッシュ・ジューイッシュ・ミュージアムを訪れて調べていたとき、100年も日の目を見ていないある資料を見つけました。その時点では16のユダヤ系アイルランド人家系図にしかなっていなかった(統合されていなかった)他のデータベースにとっても、その資料は興味深いものになるだろうと思った。それがきっかけで調べ始めました。

― お知り合いの方があなたのデータベースのためにプログラムを書いてくださったそうですが、詳しく聞かせていただけますか。

知り合いのプログラマーが私のデータベースのためにプログラムを書いてくれました。一人当たり110もの分野の情報を入力することができ、一画面にはその人の3世代の家系図が表示されます。また、ある人のページから他の人のページに飛ぶこともできます。

▲彼のデータベース。一度誰かの名前を入力すれば、プログラムがその人の家系図、生年月日、婚姻記録、帰化した日付、死亡日、碑文、6つまでの住所欄、宗教、性別、電話番号、メールアドレス、通っていた教会, 結婚した場所、その他

― ロゼンブラット氏が語る「指標」

データベースをつくるにあたって、帰化記録、碑文、婚姻記録、国勢調査、新聞の死亡告示、メーリングリスト、学校の記録、誕生記録など多岐にわたる資料を調べます。しかしこれらの資料はいつも正確なわけではありませんから、あくまで「指標」として使います。家族の方と直接話して得た情報など、より正確な情報を得たときはデータベースに修正を加えることもあります。何度も調べ、資料を比べていくことで、私のデータベースはより価値のある物になっていくのです。途方もなくやるべきことの多い仕事です。
例えば、私の祖父母は1891年8月28日にコーク(※アイルランドの都市)で結婚しました。しかし1891年12月22日に出版された帰化記録によると、私の祖父は「未婚」となっています。これは祖父が帰化を申請してから帰化記録が発行されるまで数か月かかったためにおこったことです。この例では、彼の帰化記録における婚姻に関する情報を信頼してはいけないと言えるでしょう。ただの指標とみておくにとどめるべきなのです。
多くの資料を調べて情報を自分のデータベースに蓄積していると、私のデータベースの方が他の古い資料より正確だという事も時々おこります。

▲ロゼンブラット氏のファイルのほんの一部

報酬が出ないにもかかわらず、ロゼンブラット氏はユダヤ人たちが生活したベルファスト、リメリック、コークなどを含むアイルランド全土のいたるところに足を運びました。また、自分の先祖について知りたい人たちの手助けも無償で行っています。手伝った人々は彼らや彼らの家族についての情報を教えてくれ、情報の交換をするのです。それらの情報が彼のデータベースをより充実したものにし、2015年10月には5万4000もの情報になりました。

▲作業風景。確かな情報が見つかるたびに書き足し、データベースをアップデートしていく。

―  報償がもらえるわけでもないのに、多くの時間をこの仕事に費やしてきましたよね。人々から情報を求められたり、逆に彼らから詳細な情報を得るとき、もっとも幸せだとおっしゃていますね。多くの時間を費やしすぎることについてご家族に何か言われたことはありますか?

娘がそのことについてユーモアをこめて書いた手紙を渡してくれたことがあります。その手紙で、彼女はユダヤ系アイルランド人を調べている家系図学者(手紙の中ではこの学者がまるで父親とは別人物かのような書き方をしている)に、長い間いなくなっている自分の父親を見つけてもらいたいと依頼しています。「彼は愛情にあふれた人でしたが 、死人を調べたり知らない人に話しかけたりすることに時間を割くようになってしまっています。私の父は果たしてまだこの地球上にいるのか、知りたいのです…」などと書かれていました。

― ユダヤ教の場合、女の子は父親の教会で、男の子は割礼の7日後にヘブライ名を与えられるんですね。一般名とヘブライ名の2つの名前を持っている、そのことは個人の特定を難しくしませんでしたか?

いいえ。ヘブライ語名にはむしろ助けられました。なぜなら子供たちはみな父親の名前を受け継ぐからです。家系図学的な視点から言って、そういう情報は家系図を描きやすくしてくれるからです。同じ観点から、名前を書かずに誰かの息子や娘であるとだけ記されるお墓の碑文は家系図をつなぐ手助けになりません。
クリスマスカードや結婚式の招待状はたくさんの有益な情報を含んでいます。送り主の名前だけでなく、彼らの住所や日付、家族の名前、場合によっては職場での役職や属している団体の名前まで書かれています。

▲資料のコピーは分厚いファイルに何冊もファイリングされている。

― あなた自身の家族の歴史を知ることで、アイデンティティや家族に対する見方は変わりましたか?

はい。自分の家族の歴史を知ったあと、今日自分がもっているものについて多大なる感謝の念を抱くようになりました。これは私だけでなく、もっと広く言えることだと思います。先祖たちはたくさんの抑圧や損失、飢餓を乗り越えて生き延びてきました。そしてそんな苦しい状況でもがいているときでさえ、子どもたちに良い教育を受けさせてきました。私たちはそんな彼らの子孫なのです。ユダヤ系アイルランド人の祖先がアイルランドに来たとき、彼らはそこがアメリカだと思っていて、アイルランドということさえ知らなかったのですよ。あなたが現在この世界に存在しているのは、先祖たちの奮闘のおかげなのです。

―  この大変な仕事をあきらめたくなったことはありますか?

いいえ。個人的にこの仕事から喜びを得られるからです。また、誰もが取り組んだことのないニッチな分野を見つけられたということもあります。そこには確かにプライドもありますし、嬉しいことに仕事が人々に認知されるようにもなりました。始めたのは有名になりたいからではなく、自分の家族についてただ知りたかったから、というだけだったんですけどね。この仕事が自分がこの世に生を受けた理由であるように感じるし、自分が死んだあと残る物だと思います。

彼の19部ものデータベースはアイルランドのナショナル・アーカイブス、国立図書館、アイリッシュ・ジューイッシュ美術館、ジェネオロジカル・ソサエティ・オブ・アイルランドにて自由に見ることが出来ます。

ロゼンブラット氏へのお問い合わせ
www.irishjewishroots.com
Email srosenblatt@irishjewishroots.com
Phone +353 85 730 6262
お電話はいつでも歓迎です。