ドキュメンテーションアーカイブのみち

アーカイヴ製作の視点

「あなたにとってアーカイヴとは?」
 この問いは、事業⑧ vol.2「プログラムの総合アーカイヴの製作と受講生の勉強会」の導入レクチャーで、対話の糸口とされたものです。
 ドキュメンテーションはやるもの、アーカイヴは詣でるものと思ってきたわたしは、その製作をうたう受講生企画を目にしてのけぞったのですが、話をしてぜひ一緒に挑戦したいと考えました。《声フェス》事業間を記録活動でつなぎたい、アートについて徹底的に議論をする場が欲しい、そうした動機が聞かれたからです。
 本芸術祭では、演劇、音楽、美術といったディシプリンに根ざす7つの催事が、プロセスを教育、研究の機会としながら営まれます。フェローが現場ごとの体験の総和として「ジェネラリスト」になるのではなく、各ジャンルの間でアートをめぐる発見を紡いでゆく。そこには『知の考古学』にも通じるアーカイヴの快楽が潜在していると思われました。同時に、写真一つ収蔵公開するにもマネッジしなければならいことは山とある。議論もじゃんじゃんできるでしょう。このような見込みで事業に組み込まれた受講生企画は、計画段階で「アーカイヴ」という言葉に何度も悩まされました。導入レクチャーで冒頭の問いから「私のアーカイヴ」、そして「レモスコープ」を応用して語り合ったことで、目的より動機とともに動く姿勢が確認され、コミュニケーションという具体的な活用の方向づけを得ました。「声」を集めるインタビュー案、「視点」を可視化する映像案、それらを利用した集まりを設けさらなる声を集める・・・といった循環が思い描かれ、ここにそうした思考と行為の集積の場を、プロの手を借りてつくる次第です。
 ご覧のとおり本サイトは、一つの芸術祭の「アーカイヴ」としては結構な欠けを露呈しています。それはアクションによって充たされるべき隙間として、「いまここ」の関係を越えた「いつかだれか」のためまずは開かれるものです。

事業担当者(古後奈緒子)

 本アーカイブ企画の発端に遡ってみたいと思います。意外かもしれませんが、最初にコアメンバーの石川がつけたタイトルは「0円企画」というものでした。趣旨は、予算0円のアート企画です。コアメンバーの石川は数百万円単位の予算を使うプロジェクトを運営した経験が無く、多額の予算を使うことに違和感がありました。そこで、「予算0円」で私たちが他企画をやりながら出来ることをする企画をつくってはどうかという提案をいたしました。その段階では受講生による勉強会や、何らかの形での芸術的な取り組みも想像していました。また、コアメンバーの中で「すべてのレクチャー等の記録があれば自分が出られなかった回も見られるので良い」という意見もまとまり、企画書には声フェス全体アーカイブも付け加えられました。芸術的な取り組みは諸要素を考えた結果削除され、結果、「13万円弱の予算を申請するが、事実上0円で出来る受講生勉強会企画とアーカイブ作成」の企画として大学に提出しました。大阪大学の講師と施設、そして私物や大学のカメラを使えば0円で出来るということです。企画書やその後の課程で「0円企画」についての考えを十分に伝えられなかったことは反省点です。
その時点では、私たちはアーカイブに関しては全くの素人で、「アーカイブ」という用語についても、恥ずかしながら「ただ固定カメラで全てを撮る」という程度の認識でした。審査の結果全体アーカイブの提案を高く評価していただき、講師と予算もついて、アーカイブ企画として採択されました。
 企画が始まってみると、「アーカイブ」の議論や背景がいかに奥深いものか知らされました。ただ全部を記録するだけでは一般的な「アーカイブ」ではないということ、撮影の段階からどう編集したいかを思い描いていなければ、使いにくい動画を撮ってしまうこと、さまざまな「声」をとるときの困難、肖像権への配慮、多様な機材、使用され発展する未来の可能性など。考えるべき事の多さや実際の作業の膨大さは出来た映像からは想像できないほどかもしれません。しかし同時に、ひょんな所で偶然それを見つけた人の心に響くなど、アーカイブの可能性ははかりえないと感じさせてくれた企画です。

シニア・フェロー(石川千華、上野美子、平井麻理奈)

<声フェス>Ⅲ 活動リスト

<声フェス>Ⅲ 開催場所

主催:大阪大学文学研究科
共催:大阪大学コミュニケーションデザイン・センター
大阪大学大学院国際公共政策研究科稲盛財団寄附講座、大阪大学総合学術博物館

助成:平成27年度文化庁「大学を活用した文化芸術推進事業」

協力:大阪大学21世紀懐徳堂